無料ブログ作成サービス JUGEM
←prev entry Top next entry→
大谷堰堤

堤高27.3m
G/I 1938年 蠧立製作所

2011.11.3見学

秘められた逸材。


全国のダムを調べていると、ダム便覧には掲載されていない、古いダムがある事に気付きました。
そのダムは重力式コンクリートダムで、堤高は27.3mもあり、十分ダムの条件を満たしているように思われ、これは必ず訪問して、自分の目で確かめる必要があると考えていました。

2011年11月、ついに現地に行くチャンスが訪れました。
このダムの存在を知ってから、はや2年の年月が過ぎようとしていました。

やって来たのは山口県K市
目の前は瀬戸内海、ここからダムのある山中に入って行きます。
(私企業の所有する物件の為、詳細な場所はふせておきます)



すぐにアスファルトは途切れ、道は未舗装になりました。
ダムに関係すると思われる建物が幾つかありますが、現在は使われていない様です。



道が急に怪しくなってきました。
ここは、元々は車も通れる道だった様ですが、堆積した土砂と、立木が覆いかぶさり、廃道状態になっています。

ここで、作業服を着た市の職員らしき方々とすれ違いました。
ダムの事を伺ってみたのですが、そこへ向かう道など、詳しい事は解らないとの事でした。



さらに進むと道幅も狭くなり、そして険しさを増しました。
途中で小さな谷川があり、土橋を渡ります。橋は上流側が崩落し、元々は土橋の中にあったはずの水道管が露出していました。慎重に足を進めます。



道は急に折れ曲がり、そこからは急斜面を這うように登ります。
これはダムが近い証拠です、ダム下から天端へ向かう道と思われます。

ここまで何箇所が分かれ道があったのですが、このダムへ向かうには、より険しい方の道を選ぶ事がポイントです。



生い茂る木々の向こうに石造りの構造物が見えました!。

ついに来た!
これが「大谷堰堤」です!

綺麗に積まれた、布積みの間知石。
想像していたよりも端正で美しい姿です。

それと同時に同じ山口県内の、とある堰堤にそっくりな事に一目で直感しました



その堰堤とは、山口市にある江畑溜池堰堤です。
堤高14.4m、堤頂長68.8m。1930年に完成した灌漑用のコンクリートダムです。

下の写真は前年に江畑溜池堰堤を訪れた時の写真です。
何処がどう似ている?、なんて説明は不要でしょう。



ガレ場のような道を登って天端の高さまで来ました。

堤高27.3m、堤頂長59.1m。石積ダムとしては立派なサイズ。
1938年の完成、石積ダムの建設時期としては最後の方です。

端正な佇まいは、実際の寸法よりも大きく立派なダムに見えました。



天端では、立派な親柱が出迎えてくれました。
アーチ状の抜き穴が施された、重厚なコンクリート高欄。



そしてこちらは、そっくりな江畑溜池堰堤の写真です。

堤高14.4mと、大谷堰堤よりもひと回り小柄で、天端の幅などの寸法は異なりますが、アーチ状の抜き穴などの細部も良く似ていて、同じ趣を感じます。



この大谷堰堤は、現在は日立製作所が所有する工業用水を取水するダムですが、竣工当初は江畑溜池堰堤と同じ灌漑用のダムだったそうです。

地理的にもそう遠くなく、大谷堰堤と、江畑溜池堰堤は、その設計に於いて何らかの関連を匂わせます。竣工年に8年の違いがあり、江畑溜池堰堤を参考に設計されたとしてもおかしくありません。

重厚な高欄の上に小動物の忘れ物。
今は訪れる人もなく、ひっそりとしています。



天端中央には取水設備。
半円形のスタンダードなものですが、屋根の形状や、質感を変えた壁のデザインはシンプルながら品の良さがあります。



取水設備正面には「大谷溜池」の書がありました。

大谷堰堤は、本来は「大谷溜池堰堤」と呼ぶべきなのかも。
ちなみに土木学会の「現存する重要な土木建築物2800選」では、「大谷(貯水池)堰堤」となっています。



書の名には「鮎川義介」とありました。

当初、農業用の貯水池として造られたと言う大谷堰堤。建設したのは後に日立製作所の基盤となる、久原鉱業(久原用地部)という企業でした。
この久原鉱業の初代社長、久原房之助は、日立鉱山(現在のJX日鉱日石など)の創設者であり、鮎川義介は久原房之助の義兄で、1928年に二代目社長に就任しています。
鮎川義介はその後、日産自動車などの日産グループを創る人物です。
大谷堰堤は1938年の完成なので、当時の社長は二代目の鮎川義介という訳です。



取水設備の辺りから真下を見下ろします。
3門の余水吐の越流部分と、両端の非越流部で、色の違いがはっきりしています。



ダム直下には別の構造物がありました、副ダムです。
江畑溜池堰堤も、副ダム(減勢池)を持つという特徴があります、この大谷堰堤にも、その設計が引き継がれている様です。



視線を上げると、木々の生い茂る谷の向こうは瀬戸内海です。
海が近く、海岸までわずが1キロしかありません。

その海沿いには日立製作所や、新日本石油の工場があります。
大谷堰堤はそれらの発展に寄与した水源地です。

竣工後に農業用水として給水した期間などは不明です。
堰堤を施工した事業者が、日立製作所の前身である久原鉱業なので、農業用ダムの名目で完成した後、ダム下流の農地を丸ごと久原鉱業が買収し、日立の工場地帯を形成したとも想像できます。
もしくは、既存の灌漑用溜池を久原鉱業が買収し、再開発したのかもしれませんが、その様な既存の池の存在も含め、はっきりした事は不明で、個人的な憶測でしかありません。



天端を歩いて左岸に来ました。
右岸と同じ立派な親柱です、かつては柱のくぼみに、堰堤名の銘板が入っていたのかも。



左岸よりダムを鑑賞します。

非常に美しい、整った美貌の持ち主です。
全国には沢山の石積ダムがありますが、その中でも確実に上位に入ると思います。

威風堂々というような力強い表現よりも、品格といった言葉が相応しい、上品なイメージなのです。



それには、両岸を少し張り出したデザインが効いているのかもしれません。
岩盤への接合部を利用して、城壁のような仕立てになっています。
かなり意匠に拘って、丁寧に造られた事を感じます。



クレストにつる植物が進出していますが、これもまた趣があって美しく感じます



余水吐部分のクローズアップです。
越流部の巻天端、バケットカーブに合わせたピアの滑らかな曲線。
丁寧な造りは職人技を思わせます。



天端より上流。
貯水池は小さく、インレットも含め天端から全容が見渡せる程度です。



ダムサイトのゴツゴツした岩盤が印象的。
何時から水没したままなのだろうか?湖面には立木の姿も。
堤高27.3mに対して、堤頂長は59.1mしかなく、なかり狭い谷に造られたダムです。



右岸から取水塔。
下流面の黒々とした色と比べ、正面は戦前のものとは思えない淡い色。



黒い湖面と、岩盤と、白い石積。
整った石積が湖面に栄えます。



天端でしばらく時を過ごした後、下流直下を目指して移動します。
坂道を降りて、谷川沿いに林の中へ。
歩道は完全に廃道状態なので慎重に進まなくてはなりません。



ほどなく、真下に到着。
減勢池にはほとんど水がなく、副ダムの上に登ってダムをを見上げます。
堤高は軽く15mを超えています、とても立派な堰堤です。

ここに来るまで、日立製作所の関連する建物がありましたが、どの施設も使われている気配がなく、現在は機能停止状態(廃ダム)なのかもしれません。

高欄のアーチ状の抜き穴が、クレストを綺麗に飾っています。
(アーチ状の抜き穴は、きっと、こうやって眺める為のデザインなのだろう)



角が丸く整形された滑らかな副ダムの表面。
越流部の曲面に合わせて、石材表面も丸く削られています。

水を滑らかに流す目的もありますが、見た目の美観がかなり意識されています。

2000年頃に完成した多目的ダムには、外観デザインを拘ったダムも多く見受けられますが、同じ様な事を、それより70年も前に既にやっていた訳です。



黒々とした石積表面。
石の材質は花崗岩だと思います。

戦前のダムには、迷彩の為コールタールを塗られたダムがあると聞いた事があります。
この大谷堰堤がそうであるかは不明ですが、墨のように真っ黒な表面に、その話を思い出しました、



こんな立派で美しいダムが、ほとんど人に知られる事なく存在していた事は、ネットで簡単に情報が入手できる世の中にあって、奇跡のような物件です。

私企業の施設であり、積極的な公開を望まれるのか不明な事と、現地までの道が必ずしも安全ではない事もあり、詳しい位置情報は伏せましたが、調べてみれば簡単に位置は判ると思います。
今の所、天端も含めダム本体には立入の規制はありません。(貯水池は立入禁止)

蜂などの予期せぬ危険もありますから、もし興味があり訪問される時は、充分気を付けて見学される事をお勧めします。



隠された山口の秘宝。

大谷堰堤
★★★★★

| あつだむ宣言!(清水篤) | ダム山口県 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
2012/04/26 12:50 AM posted by: だい
面白いですね!
とりあえずダム便覧に申請してみてはいかがでしょうか?
こんなダムが埋もれているなんてもったいない!
2012/04/26 12:20 PM posted by: あつだむ宣言!
まいどですーっ。
真下から見上げる感じは山田池を思い出しましたよ。だいさんも好みでは?

ダム協会さんには既に相談しています。
廃ダムの可能性もあり、「参考掲載・堰」として載る事になるかもしれません。

現在製作中の次のダムレポートも、負けないくらいの超レア物件です。
レポートが長編になりすぎて時間が掛ってますが、いずれアップしますのでお楽しみに!!
name:
email:
url:
comments:
Trackback
http://side-way.jugem.jp/trackback/864