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中宮ダム

堤高16.6m
G/P 1935年 北陸電力

2011.10月某日見学

竜宮城の深海魚。


東海・北陸のコンクリートダムは、ほとんど観て来ましたが、それでもなかなか観る事が許されないダムもあります。中宮ダムも、そんな見学困難物件のひとつでした。

白山の山麓、白山国立公園の中にあると言う中宮ダムは、現地までのアクセスは登山道しかなく、しかも、林道入口より立入禁止の為、僕も含め多くのダムファンは、その姿を指を咥えて想像するしか無かったダムでした。

秋真っ盛りの10月下旬、北陸電力様のご厚意で、ついに中宮ダムに行ける事になりました。
いつものダム仲間数人が白山に集結、中宮発電所付近から車で林道に入り、北陸電力様にご案内頂きながら、およそ4kmの巡視路を徒歩で進みます。

切り立った断崖を縫うように続く歩道、谷は遥か眼下にあり、川の音も届いては来ません。クマの出没エリアである事は聞いていましたが、こんな道だとは聞いていませんでした。

途中で白山国立公園の境界を越えました。
それは、人間の日常世界と、手つかずの大自然との境界線です。

道は崖の上に付けられた、人ひとりが歩けるだけの棚でしかありません。
水平歩道で仙人谷ダムを訪問した事のある、ひろ@さん曰く、
「高さが違うだけで、水平歩道と変らない、この道を歩けるなら、仙人谷ダムにも行ける」

高い所が苦手は僕は、とにかく歩くだけで精一杯。
下の写真はだいぶダムが近づいて、谷が近くなってから撮りました(ここまで精一杯で写真撮る余裕なし)

さあ、そろそろ念願の中宮ダムが見えて来るはず。



歩道のカーブを曲ると、川のせせらぎとは違う、盛大な水音が聞こえてきました。道から逸れて、川の方に降りてみます。

それを目の当たりにして、だれもが絶句しました。
目に飛び込んで来たのは、純白のレースのカーテンでした。



堤高16.6m、堤頂長33.2m。
ダムとしては小柄な部類ですが、それでも独特の表情は強いインパクトがあります。



白い越流で隠れていますが、堤体表面はびっしりと石張で覆われています。

石材は石積ダムによく使われる整った間知石ではなく、表面は荒々しく野趣に溢れ、石の大きさや形がやや不揃いの為、目地もまばらな印象。

そして、積み方はスタンダードな布積ではなく、ダムとしては珍しい谷積。
苔生して緑色を感じる谷積の表面は、爬虫類の鱗を思わせ、あたかも川を昇って行く龍を彷彿させます。

1935年という竣工時期も考慮すると、ダムの整形型枠として石を積んだメイソンリーダムではなく、越流水から堤体表面を保護する為に貼り込まれたものだと思います。



それを裏付けるかのように、越流部から立ち上がるピアの表面に石は無く、通常の整形コンクリートとなっていました。

細かいピッチの肉厚なピアは、かつては可動ゲートがあった様にも見えますが、竣工時から現在と同じ姿だと思われます。
この部分の下部に4門の排砂ゲートを持っており、それらの設備を支える為に、この様な頑丈な造りになったものと想像しました。



下部に並ぶ4門の排砂ゲートは、外観上の一番のポイントです。

現代のダムのコンジットゲートのように並ぶ、4門の排砂ゲート。
吐口の幅や高さがバラバラ、向きも微妙に異なっていて、何処となく、成り行きで決まったような不自然さがあります・・・。



そんな事もあり、中宮ダムは、今迄観て来たどのダムとも類似性を持たない、独特の外観と言えます。

現在は北陸電力が管理している中宮ダムですが、戦前に雄谷川電力という電力会社によって造られました。雄谷川電力という会社が、どの様な会社であったかは分かりませんが、当時日本中に乱立していた小規模な発電会社の一つだと思います。

そのイメージがあるのか、改めてダムの外観を観ると、見様見真似で作ったような、何処か素人っぽい未完成な印象を受けます。(あくまで外観の個人的なイメージです、機能や構造には問題ありません)
布積ではなく、谷積である石張りも、在来の日本の石積を応用したものかもしれません。

ダムまでの道は、当時も今と変わらず、今日歩いて来た巡視路のみだったそうです。建設に必要な物資は全て、歩荷による人力で上げられた事でしょうから、独特の外観は、極力少ない資材で建設した結果なのかもしれません。
きっと、野趣あふれる石張も、現地調達で石材を確保した結果ではないかと想像します。

中宮ダムの他とは違う不思議な外観。

その、普段見慣れない感じや、ディテールの一つ一つに疑問を思う感じは、魚類図鑑で深海魚のページをめくった時の驚きに似ています。



しばらく真下から美しくも少し不思議な姿を観賞していましたが、再び巡視路に戻り左岸沿いに登ってみます。

中宮ダムの横顔。
手前に並ぶ頑丈な骨格のようなゲートピア、その向こうは苔生した鱗状の石張。
極端な見方をすればグロテスクという表現もでき、それは深海魚のイメージとリンクします。

巡視路はそのまま、ダムの天端へ通じていました。
もちろん、天端へはご案内下さった北陸電力様の許可を頂いて入らせて頂きました。



天端の左岸には発電所への取水口が一体となって設置されています。
取水設備の鉄筋コンクリートの建屋は、見るからに頑丈な造り。



天端は管理通路というよりも、取水設備や排砂設備そのものといった印象です。
渋い北電カラーが重厚な趣を与えています。



取水設備の上から。
左岸から3番目のひと回り大きな排砂ゲートの部分です。

この水の透明度!。
ずーっと下の方までガラスの様に澄んでいます。



多少の堆砂はあれど、この規模の戦前のダムとしては水深が保たれているように思います。
実はつい先日、排砂放流を行なったばかりだそうで、4門の排砂ゲートが効率よく働いている事が分かります

水の底がよく見えるのは堆砂の為ではなく、恐ろしく水が澄んでいる為です。

澄んだ水は竜宮城への入口でしょうか?不思議なおとぎ話をイメージさせます。

PLフィルターを付けたり、レンズを交換していたら、危うくレンズを落しそうになりました。
もしも、レンズを水に落としたら、水中から女神が現れ、
「あなたの落したレンズは、このDAリミテッドですか?それとも、こちらのDA★ですか?」
と、聞いて来そうです(PENTAXユーザーしか解らない例えですみません)



取水口と排砂設備が並ぶ左岸を過ぎると、右岸側はシンプルな管理橋が渡されています。アングル材の簡単な手摺、歩く路面は木製です。

橋台部分の少し荒れたコンクリートも味わい深く趣があります。



管理橋を渡った先も歩道は続いていましたが、道はいっそう険しくなりました。
少し俯瞰で見える所まで行ってみましたが、危険を感じたので戻る事にしました。



深い谷底にあるので、到着した頃は日陰でしたが、太陽が高くになるにつれて、ダムにも秋の日差しが射してきました。

辺りは手付かずの自然。
産まれたばかりの無垢な水が流れ、耳に届くのはせせらぎと鳥の羽音だけ。

ああ、来て良かった。

案内して下さった北陸電力様、見学の交渉をして誘ってくれた夜雀さん、ダム仲間のみなさんに感謝。
優しい秋の陽光に照らされ、管理橋の木製の床はぽかぽかして来ました。その温かい床の上でまったりしながら、ダム好きでよかったと感じる僕でした。



中宮ダム。
戦前に造られた小さな取水ダムですが、今も休むことなく発電所に水を送り続けています。

こんな山深い地にダムを築いた事にも驚きですが、現在も当時と変わらない険しい歩道を歩いて管理されている事にも、改めて感動を覚えました。

最後は雲一つない秋空の下、金色に輝く白山の紅葉を背景に、流れ落ちる水がいっそう眩しく輝いて見えました。

ずっと行きたくても訪問できなかった中宮ダム。
幻想的な貯水池、龍の鱗のような石張、見慣れない深海魚の様な外観。
見るもの全てが美しく、そして少し不思議な、水と自然の世界でした。

今思うと、本当に行って来たのだろうか?
思い出を振り返ると、竜宮城から戻って来た浦島太郎の心境になるのでした。



霊峰白山の竜宮城。

中宮ダム
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