-
スポンサーサイト
-
2020.03.26 Thursday
一定期間更新がないため広告を表示しています
| スポンサードリンク | - | - | - | pookmark | -
大森川ダム
-
2012.03.28 Wednesday 12:13
堤高73.2m
HG/P 1959年 四国電力
2011.10.9見学
孤高の騎士。
大森川ダム。
それはダムに心を奪われてから、ずっと忘れる事なく思い続けていた、僕にとって幻のダムである。
高知の山奥深く、吉野川源流部の支流である大森川渓谷にあり、ダムへと向かう林道はどれも難所の酷道であり、通行止めも多い。
最初にアタックしたのは2010年の2月。
この時は林道が工事の為、完全な通行止めであった。
諦めがつがず、ダメ元で林道入口から数キロ入ってみたものの、生憎の雨天でダート路面はぬかるみ、工事現場まで達する事なく撤退を余儀なくされた。
2回目のアタックは2011年5月、この時の四国遠征も雨に祟られた。
さらにアタック予定の前日に子供が熱を出し、急遽帰還命令が下され断念。
大森川に嫌われているのか。ダムの神よ、何故試練をあたえたもう。
そして、3回目のチャレンジを慣行したのは2011年10月の事であった。
今回アタックを10月としたのは訳があった。
まず、ダムまで続く全長11キロにも及ぶダート林道は雨が降るとぬかるむ事が予想され、10月は晴天が多く天候が安定する時期である事。
そしてもう一つは、ダム便覧やネット上の大森川ダムの写真は何故か曇天の写真ばかりであった事。
晴天の大森川ダムを観てみたい。
すっきり晴れ渡った秋空をバックに大森川ダムを観て、そして写真に収めたい。
鏡ダムに立ち寄った後、国道194を北進。
午前9時、大森川渓谷沿いにダムへと続く林道の入口に到着。
大森川ダムまでは、これ以外にも林道が存在するが、通行止めが多く、例え開通していても常識では想像もつかない超ウィザード級のハード林道であり、素人が2駆の乗用車で行くのは自殺行為に等しい。
唯一、普通の車で行けるルートがこの渓谷沿いの林道であり、そこから向かう大森川ダムこそ、普通車で現地まで行けるダムとしては、最高難易度のダムと言える。
林道入口から数キロは林の中を地形に沿って進む林間ダートである。
10キロ以上もダートが続く、タイヤにダメージを与えない様に慎重にデミオ号を進める。
焦る事はない、今日は大森川ダムのみを落とす計画なのだ。
林間ダートを3〜4キロほど進むと視界が開けて来る。
今度は谷底まで100mはあろうかという山腹を延々と進む事になる。
ここは天国への階段か、それとも地獄の入口か。
去年の冬にアタックした時と比べて、非常に走りやすいダート林道。
実は、最近補修がされた様で、深い轍は砕石がきっちりと敷き詰められ、覚悟していたより路面のコンディションがとても良い。時々、車体の底をコンコンとノックされるが全くの想定内である。
但し、轍を埋める砕石は拳大の石が多く、常にパンクの危険がつきまとうため進路は慎重に選ぶ必要がある。
また、待避所が悲しいほど少ない。幸い一台も対向車が無かったが、運が悪いと何百メートルもバックする事になるかもしれない。
ともかく、昨日迷って突入した普当池左岸のダート林道と比べたら、これでも快適とすら感じてしまう。
一度地獄を味わうと、直ぐに免疫が出来てしまうダムファンの性が恐ろしい。
さらに進むと、はるか眼下に見えていた渓谷がすぐ側に見えるようになる。
ここからダムまではアップダウンも少なく、快走ダートが4〜5キロ続く。
さあ、難所は超えた!。
ダムまであと1キロの地点に渓谷を渡る橋がある。
橋を渡るとダム左岸にあるダム管理施設に、そのまま進むとダム右岸に達する。
僕が選んだのは、そのまま直進して右岸に向かう道である。
橋から上流へ500m、ゆっくりと車を進める・・・。
前方の谷間にコンクリートの巨大な壁が見えてきた!!
高鳴る期待!
心臓の鼓動が聞こえてきそうだ!
おおおおおおおおお!
をををををををををををををを!
ついに来たーーーーーーーーー!!!
幻のダム、大森川ダム!!!
雲ひとつない快晴の空。
大きく翼を広げるその勇士。
大森川!
嗚呼!大森川!!
美しいV字の谷底から築かれた73.2m。
カッコイイにも程がある!
胸元に刻まれるのは巨大な十字架か。
左右に伸びるホロー内部と通じる換気口への巡視路。
しゃーばばばばばばばばば。
深い渓谷を跨ぐ大森川ダム。
河川維持の放流の水音は、塞がれた谷底に反響し、辺りを支配している。
ここからまだ300mは離れているが、音源が耳元にあるほど近くに感じる。
まるでヘッドホンで音を聞いているようにさえ感じるのは、眼前の風景が現実離れした絶景である為か。
これは現実か、それとも夢か。
現実世界にしては、あまりにもヴァーチャルな空間。
現実ならずっと眺めていたい、夢なら永遠に。
真直ぐに落ちる人工の滝。
意図的に刻まれた横継目のライン、ラディカルな堤体デザインにとても良く似合う。
ごつごつした河原の自然な情景が、現実世界と僕を結ぶ唯一のロープ。
林道は相変わらず一台も車が来ない。
放流の音だけが高知の秘境に響き渡る。
持参したコンビニ弁当で昼食。
一時間ほどダムを鑑賞していたら、天端の向こうから雲が湧いて出てきた。
最初、日本晴れの青空で鑑賞できたのは、奇跡的なタイミングだったのかもしれない。ダムの神様に感謝。
太陽が真上に近くなると、堤体の中程、十字架の少し下辺りで堤体の色が変っているのが解る。
中空重力式の堤体は、途中で傾斜が切り替わっていて、光線の当り具合で表面の明るさが異なって見えるのだ。
時間はまだ余裕がある。
蛇に睨まれた蛙の様に、またしばらく堤体を観ていたが、林道を奥に進み堤体右岸に行ってみる事にした。
ダム直下からダム右岸へ上る坂道。意外にもここだけコンクリートで舗装が。
快適、快適。
坂道を登り切ると直ぐにダム本体の右岸に到着。
天端は厳重なフェンスにより立入禁止。
岸沿いの車道から間隔なく始まる天端、とてもタイトである。
フェンスの隙間からレンズを出して写真を撮る。
イージス艦の装甲を思わせる硬質な表情。
全ては省コンクリートの為に。
無慈悲でクールな造形は、中空重力式ならではの迫力と魅力に溢れる。
そこには、バケットカーブといった、技術者の主義志向が反映できる要素はない。
高欄でさえ只のコンクリートの一枚板でしかなく、そこから一気に突き落とす様に始まる下流面。
途中で勾配が切り替わるが、それも構造的な要素の一つでしかないのだろう。
山の中に射す光のように、全てが直線で構成された大森川ダムの姿。
唯一、この大森川ダムの外観で曲線が使われているジャンプ台の基部。
木々に隠れているがジャンプ台は側面からアーチ形状にくり抜かれている。
これも省コンクリートの為、アーチ状であるのは力学的な要素。
何処までもクール、それが大森川ダム。
ダムサイトを少し離れ、上流面を望む。
わずが15年の間に13基のみ建設された中空重力式ダム。
この大森川ダムの竣工は1959年。
1957年完成の井川に続き、中空重力式としては国内二例目のダムである。
省コンクリートが目的であり、よって小型ダムの施工例が無く、73.2mもあるこの大森川でさえこの型式では特別高いダムではないが、シャープな風貌がそう思わせるのか数値以上に高いダムに感じる。
U字谷に造ってこそ真価を発揮する型式であり、191mの堤頂長はこの型式では短い方である。
但し、下流面から観たV字谷の光景は両岸の山の張り出しによるもので、実際の堤体正面形状は、もっとU字谷に近いものではないかと想像される。
静かな貯水池。
矢木沢ダムや三浦ダムにも通じる最果て感が漂う。
実際、吉野川最上流の源流部に築かれた長沢ダムを下池とした揚水発電の上池を担うのが大森川ダムの使命であり、名実ともに最果ての秘境と言って良いだろう。
対岸に見えるダム管理所。
左岸にもほとんど平地がなく、非常のタイトな立地である。
揚水発電専用のダムである為、ダム本体には取水設備などは一切無い。
クレスト中心に構えるクレストゲートも1門のみと潔い。
クレストから此方の右岸に延々と伸びている物がある。
先程、渓谷に水音を反響させていた河川維持用のホースの様だ。
1997年の河川法改正により、発電用ダムに於いても河川維持の為の放流が義務となった。
クレスト脇からの放流は、半世紀にのぼる大森川ダムの歴史の中では、つい最近の変化だと言えるだろう。
堤体から右岸へと続く2本のホース。
岸に一旦上陸したホースは右岸に沿い、貯水池に浮かぶ取水設備へと繋がっていた。
僕にとって幻であった大森川ダム。
記念写真など滅多に撮らないのだが、3年と8ヶ月、15万キロを付き合ってくれたデミオ号と記念撮影。
高知の自然と水の恵みにも感謝。
電気のある便利な暮らしも、大森川ダムの様にひっそりと人知れず働き続けているダム達のお陰である。
高知の秘境にその姿を魅せる大森川ダム。
それは想像を超える恰好良いダムであった。
ダート林道を延々一時間ほど進んだ先にあり、誰しも勧められるダムでは決して無い。しかし、ダムファンなら可能であれば是非訪問して欲しい名堤である。
多少苦労しても、必ず期待以上の驚きと感動を持って迎えてくれるだろう。
秘境にそびえる孤高の騎士。
大森川ダム
★★★★★ -
スポンサーサイト
-
2020.03.26 Thursday 12:13| スポンサードリンク | - | - | - | pookmark |
-
Comment
-
Trackback
- トラックバック機能は終了しました。