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米沢発電所取水堰

堤高不明
G/P 1931年 中部電力

2010.9.25見学

究極の越流美。


日本全国には美しい越流を魅せてくれる素晴しいダムが幾つもある。
たとえば、鱗模様の越流が美しい、愛知県 瀬戸市水道局 馬ヶ城ダム。



玉石による石積の下流面を、越流水が滑り落ちる。
宮城県 仙台市水道局 青下第1、第2、第3ダム。



プラチナに輝く清流のカーテン。
奈良県十津川村 電源開発 奥里ダム。

IMGP9887.JPG

また、三大美堰堤と賞される藤倉堰堤、白水堰堤、長篠堰堤。
すだれ越流と呼ばれる宮城県 鳴子ダムなども、越流が美しいダムの筆頭候補に挙がるだろう。

だが、今回訪問した長野県茅野市にある、中部電力米沢発電所取水堰こそ、究極の美越流ダムであると断言したい。

この、あまり聞きなれない取水堰は、ネット上でもほとんど情報が無く、詳細な位置も不明であったが、幸い茅野市の地図に米沢水力発電所の記載があり、無事辿り着く事が出来た。

米沢水力発電所から上流へおよそ500m。
目的の取水堰は道路脇にあるが、林の中にあって、注意しないと通り過ぎてしまうかもしれない。



車道から見た米沢発電所取水堰。
手前に取水口があり、水路を通って水が送り出されている。



取水堰に歩み寄る。
取水設備内は立入が禁止されているが、正面の通路は開放されている。
対岸の左岸には水田が広がっており、地元の方の利便性の為に解放されているのかもしれない。

放流設備の上に鉄の管理橋が架けられていて、それを渡れば取水堰の正面に出られる。



これが米沢発電所取水堰である。

堤高は低く、目測で5mにも満たないが、堤頂長はたっぷりとしており、越流部だけでおよそ60m、左右両岸にある放流設備も含めると、全長は70mはあるだろう。

一見すると、コンクリートの表面が、ただ単に「水に濡れているだけ」に見える。

だが、そうではない。
滑らかなコンクリートの表面を、薄く、そして均一に、音もなく水が滑り落ちているのである。



この米沢発電所取水堰の越流は、透明な水がそのまま透き通った状態で流れ落ちる

鱗模様をはじめ、通常の越流が白く見えるのは、流れ落ちる水が堤体表面の凹凸や、勾配の変化によって堤体表面から剥離を起こし、周辺の空気を噛み込む事によって起こる。

形のない水という物質を、薄く、空気を噛ます事なく流すには、表面の平滑性だけではなく水量や水の層の厚さなど、幾つもの要素が複雑に絡み合ってくる。
これだけの規模で、滑らかに薄く、均一に越流させるのには、緻密な設計と、さらに高度な整形技術が必要であるはずだ。

この取水堰が造られたのは昭和6年。
日本で始めて型枠を使って堤体を整形した、ゴッドファーザー・大井ダムから僅か数年、流体力学などといった言葉さえも無かった時代である。

これが、僕がこの越流を、究極の美越流とする理由である。



一切空気を含まない、無色透明な越流。

表面を薄い水の層で覆った堤体は、周辺の樹木の影を細部まで忠実に映し出す。
越流水が白く流れていては、この様に影を映す事は出来ない。
これも、この取水堰だけの情景だろう。

また、滑らかで水音さえしないコンクリートの表面は、局部的に強い水圧を受け、磨耗や破損をする事が無いのか80年前の物とは思えない美しい肌をしている。



右岸の端にある放流設備。先程渡った鉄製の管理橋からの様子。

階段状のゲートピアは、高知県の高藪取水堰(1930年竣工)を彷彿させる。
ほぼ同時期に作られた堰堤が共通するディテールを採用しており興味深い。今でこそユニークな形状に見えるが、当時としてはスタンダードな形状なのだろうか。

脇にあるのは魚道だと思われるが、ここを魚が遡上するのは至難の業である。
河川は本流ではなく、里山の小川に造られた取水堰なので両生類などの水辺の生き物が対象なのかもしれない。

この真後ろに、発電所への取水設備がある。



ゲートピアの細部。

石膏のように白い表面は、塗布された表面保護材の類だろうか。ゲート付近の放流が当たる部分は下地の石材が覗いている。

ひょっとしてピアは全面的に石積なのかもしれない。
石積である事が階段形状のピアの正体なのだろうか?。



取水堰の下流正面は中州になってて、対岸まで歩いて渡る事が出来る。

左岸にも別の放流ゲートがある。こちらのゲートピアは石積である事が一目瞭然である。
正面にミニチュア級の吊橋が架かっていて、対岸まで自由に渡る事が出来る。



この米沢発電所取水堰は二つの小川の合流点に造られており、両岸にある放流設備は、それぞれの川筋の名残の様に思われる。
どちらか片方は排砂ゲートかなと想像したが、判別は出来なかった。



吊橋を渡り、水田のあぜ道から見る越流部。
里山の小川なので、堆砂は少ないが、その代わり藻が繁殖しているようだ。



トロッとした水の粘度を感じる堤頂部。
こういう水の表情がたまらなく好き。



昭和初期に造られた、米沢発電所取水堰堤。

それまでのスタンダードだった石積を脱ぎ捨て、コンクリートで表面を覆った事で得たのは、水流に一切逆らわない滑らかな下流面と、流れ落ちる柔らかな水の表情でした。



米沢発電所取水堰
★★★★



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