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志津見ダム

堤高85.5m
G/FNIP 2010年 国土交通省

2010.9.4見学


重力式コンクリートダムの格好良さって何だろう。

黒々とした肌、重厚で堂々とした堤体。
見上げればクレストには鋼鉄のゲートが牙を剥き大空に吠え掛かる。

たしかにクレストゲートを持つコンクリートダムはカッコいい。
でも、カッコいいのと、個人的に好きな物は必ずしも一致する訳ではない。

福井県 山原ダム


群馬県 小森ダム



京都府 由良川ダム



新潟県 黒又ダム



山形県 梵字川ダム



これら僕が個人的に偏愛して止まないダムたち。

「全面越流式」

クレストゲートを持たず天端通路さえ廃した「ストイックなコンクリートの壁」

コンクリートを愛でるのに余計な物は要らない。
いや、何も要素が無いからこそ、コンクリートは一枚岩のような塊感とマス感を持って観る者に迫ってくるのだ。(と、思う)

だから、僕は全面越流式が好きだ。

でも、一つ惜しむべき事がある。
全国には沢山の全面越流式のコンクリートダムが存在するのだが、基本的にこれら魅力的なダム達はどれも皆「背が低い」のである。

河川法のダムに満たないローダムのスタンダードな姿でもあり、晴れて15mを超え、立派にダムを名乗る堤体でも多くは堤高20m台。
まれにもっと背の高いものもあるが、それでもせいぜい40m級といったもので、クレストに鋼鉄のゲートを持った華のあるダムに比べて、どうしてもマイナーな存在である事は否めない。

以前、テレビ番組の出演依頼があった時、打合せの中でディレクターからこう聞かれた事がある。「もし、自分好みでダムを造るなら、どんなダムを造りたい?」
その時は、「琵琶湖の出口に巨大なダムを造って、琵琶湖を嵩上げしたい」と、適当に一般受けしそうな事を答えたが、僕の心中では密かにこう語っていた。

「全面越流式で、堤高100m」

そう、これが僕の考える、美しく、かつ重厚、何よりもコンクリートの魅力を余すところ無く鑑賞しうる究極のダムの姿である。
そして、今、そんな僕の理想とも言えるダムが産まれようとしている。

島根県 斐伊川水系神戸川 国交省が建設を進める 志津見ダムである。



氷河のような真っ白なコンクリートが傾いた日差しに輝く。

堤高85.5mは理想とする100mに僅かに及ばないが、今迄誰も見た事の無い風貌と共に、全面越流式の魅力を知らしめるには充分なインパクトである。



中央に2門の常用洪水吐。
堤体がシンプルな分、デフレクターのシャープさが際立って見える。



ユニークな形状の突起、エアー抜きのような穴も見える。
突起はこの穴に越流水が流れ込んだり、塞いだりしない為だろうか。



大きく丸められた天端下流面。

曲面の表情は有機的な優しい丸みではなく、無機質で冷たくクールな造形に感じるのは、志津見ダムが最新鋭のダムである証だろう。
それは、CADによる緻密な設計と、忠実に寸分の狂いも無く整形する高い技術が成し得る最新鋭のダムの表情ではないだろうか。



この丸い天端の上に橋脚を並べ、天端通路の橋を架ければ、よくある非常用洪水吐が並ぶコンクリートダムになるかと思えば少し違う様だ。

下流面を良く見ると通常のコンクリートダムと比較して明らかに勾配がきつい。
まるで石積堰堤を思わせる下流面の急勾配、特に天端のRエンドからの勾配はほぼ垂直と言えるほど切り立っている。

ダム本体に近づくに連れ、さらに今迄見た事のないものが見えてきた。

志津見ダムの最大の秘密は天端部分にある。



天端の頂上に幅広の溝。
実はこの志津見ダムは全面越流の非常用洪水吐でありながら、同時に天端に通路を持つ、今までにない画期的なコンセプトのダムなのである。

構造の簡素化、しいては建設コストの軽減というこの新方式は、サーチャージを越え水が越流する場合、直接天端通路の上を水が乗り越えて行くという、実に大胆な方式なのである。

真っ白なコンクリートの舗装。
いや、決して舗装ではない、これは露出した志津見ダムの肉であり、肌そのものである。
ひと塊の岩から削りだしたような彫刻的な天端通路は、従来のダムには無いソリッドな異空間である。



通路の下流端には側溝があり、グレーチングが敷かれているようだ。
越流後、天端に残った水の排水の用途だと思われる。

ひょっとして下流面の二つの穴は、天端の排水口かと思うが真相は不明。



高欄は水勢に耐えるべく、とても分厚く、そして低く見える。
試験湛水が完了し晴れて竣工を迎えても、天端は一般には開放されないと感じられた。



非常時には完全に流れに飲み込まれる天端。
対岸の右岸には道路が無いので、その前には必ず此方に戻っていないと、水位が下がるまで対岸で完全に孤立してしまう事になる。
但し、見たところ対岸には何も施設や設備が無いので、まずそんな事は起きないだろう。(ひょっとして右岸とは監査廊で通じているかもしれない)



広大な志津見ダムの貯水池。
ダムサイトから見える湖面は全体のほんの一部で、上下にとても長い貯水池である。

志津見ダムの目的はFNIPと多岐にわたるが、総貯水量の80%は洪水調節に当てられ、実質的に防災ダムと言えるものである。



あまりに個性的な堤体を観ているうちに、太陽は西の山に隠れてしまった。

垂直に切り立った正面。
2門の常用洪水吐は可動ゲートの無い自由越流式であるから、現在の水位から天端までが洪水調節量となる。
中程に見える四角い塊は河川維持などの放流設備だと思うが、洪水調節時には丸ごと水没してしまう事になる。



この志津見ダムを便覧で知ったのは丁度一年前の事だ。その時は、椅子から転げ落ちるほど驚愕し、そして興奮した。

さらには丁度試験湛水が始まっている事を知り、春には満水になり、やがて訪れる全面越流の瞬間を密かに楽しみにしていたのだが、冬季の降水量が予想を下回り、満水を待たず洪水期を迎える事から湛水試験は延期、それまで上げていた水位は再び常満まで下げられた。

つい先日の発表では、現在、来年春の満水に向けて再び水位を上げつつあるそうである。

堤高85.5mからの全面越流。
志津見ダムはどのようなパフォーマンスを魅せてくれるだろうか。



重力式コンクリートダムの未来形、そして我が心の星。

志津見ダム
★★★★

| あつだむ宣言!(清水篤) | ダム島根県 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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