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豊稔池堰堤
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2010.04.22 Thursday 12:13
堤高30.4m
MA/FA 1930年 香川県
2010.2.13見学
ダムに願いを。
豊稔池堰堤は、国内で2例しかないマルチプルアーチ形式の貴重なダムである。
竣工は昭和5年、香川県の工事として建設されたが、数名の技術者の指導の元、地元住民の手により完成。
1988年から1994年にかけて、ダム湖側の表面をコンクリートで覆うなどの補強工事が行なわれたが、下流面の外観は竣工当時の姿を残しており、1997年には国の登録有形文化財の指定を受けている。
元々灌漑用のダムだが、補強工事後は洪水調節の目的が追加されている様だ。
ヨーロッパの古城に例えられる美しい5連アーチ。
堤高30.4m、堤頂長128m。想像していたより、実物はかなり大きい。
そう感じるのは、この重厚で風格ある姿に、一目ですっかり魅了されてしまったからだろうか。
アーチを支える扶壁に開いた、四角い穴状の洪水吐。
一番左の吐きは岸の上にある為、左岸は谷積みの石積で覆われている。
その場所は、放流水が流れる部分だが、人が歩ける段差があり、誘われるがままに堤体に近づいてみる。
扶壁に囲まれた石積みの空間。
床の中心の溝は背丈以上に深く、奥には排砂ゲートらしきものがあるが、現役かは不明。
見上げる石積みアーチ。
アーチは垂直ではなく、下流側に大きく覆いかぶさっている。
この豊稔池堰堤は形式名としてはアーチダムの一種であるが、重厚な扶壁と大きく傾斜した遮水壁の組み合わせは、バットレスダムに近い。その点では、国内もう1基のマルチプルアーチ 大倉ダムとは大きく異なる。
1930年という竣工は、三成ダムや上椎葉ダムが完成する20年以上も前の時代であり、重力式アーチダムを含めると青森の大湊ダムが1909年に完成しているものの、この豊稔池堰堤がアーチダムの先駆者である事は歴然としている。
なぜ、この時代に豊稔池はマルチプルアーチダムという異例の形式で造られたのだろうか。
1930年頃は省コンクリートのダムとして、最も盛んにバットレスダムが建造された時期である。
また、それ以前から九州を中心に西日本では多くの「石造アーチ橋」が造られている事にも注目したい。
連続するアーチを石積みで築いた豊稔池堰堤は、有名な長崎の眼鏡橋などの石造多連アーチ橋に非常によく似ている。
豊稔池堰堤の構造は、石造多連アーチ橋をそのまま横倒しにした状態に近いと思うのだ。
ダム築堤の経験の無い地元住民による建設を、確実に、かつ容易に進める為、既に確固たる技の含蓄のあるアーチ橋建設の技術が応用されたと思うのは、僕の突飛すぎる空想だろうか。
オーバーハングするアーチにぴったりと背中を付け、上を見上げる。
丸いアーチと垂直にそびえる扶壁の間に、狭い空が見える。
扶壁のエッジ部分は、コンクリートで整形されたパーツが使われている。
その表面も砂利が貼り込まれ、一見して周辺の切石に溶け込んでいる。
この堤体の完成度の高い美しさは、こういったひとつひとつのディティールの積み重ねによる。
垂直な扶壁の壁を見上げると、表面には無数の鉄筋が突き出す。
建設時の足場などに使われたのだろうか。
香川県の観光スポットとなっている豊稔池。
まだようやく朝の7時を回った時刻だが、既に数組の見学者が訪れていた。
右岸寄りのアーチに配置された放流バルブ、こちらは現役と思われる。
但し、未だ電化されておらず操作は手動である様だ。
バルブからの放流水が直接当る部分は、アンカーが打たれ補強されていた。
歴史ある名堤を守る為、細かな配慮が施されている。
風格ある豊稔池堰堤は、堤体以外にも見所に溢れている。
右岸側の下は広く石張りがされ、石造りの宮殿の様だ。
滑らかな傾斜を持つこの一角は、放流水の減勢の部分であるが、それだけが目的では無い様に思える。
低い位置の放流バルブの正面に位置しており、低層の冷たい放流水を温める目的があるのか?。
このエリアの端には中に入る為の階段があり、水が溜まると水深は浅い所で膝下、一番深くても大人の股下辺りであり、子供達が水遊びするには丁度良い水深になるだろう。
地元住民が中心となって造られた豊稔池である。貯水池により川の遊泳場が水没してしまう事が、もしあったとすれば、子供達の為にそんな使われ方もあったのでは?。
根拠の無い空想に過ぎないが、そう思わせるに充分な凝った造りとなっている事は確かである。
堰堤の下流は芝生が敷かれ公園となっている。
季節が冬とあって芝は枯れてしまっているが、ゆるぬきがされる初夏には、青々とした芝生と青空、それに美しい石積ダムの放流が観られる事だろう。
公園の左岸脇には旧設備の展示。
実はその裏手に歩道があり登って行くと・・・。
堰堤建設時の火薬庫跡が残されている。
山の斜面の歩道はまだまだ先があり、登ってみる事にした。
サクサクと枯葉を踏みながら登った先には、小さいながらも立派な祠とダム碑があった。
立派なダム碑。
向かって左は稲穂のレリーフ、右はうどんの国らしく小麦だろうか。
僕がこの豊稔池で最も素晴しいと思うのは、石積みの美しさでも、貴重な形式でもなく、「豊稔池」という堰堤名である。
通常、ダムの名前は、その土地の地名に由来するのが慣例であるが、近くの「満濃池」の影響もあったのか、この堰堤は地名に由来しない名前が命名されている。
「豊かな稔りの池」と書いて豊稔池。その事を想うと目頭が熱くなる思いがする。
振り返ると豊年池の貯水池。この時期は水位は低い。
決してアーチ形式のダムに適した岸に見えないが、湖畔には、くっきりと地層が刻まれた荒々しい岩盤が露出する部分もある。
駐車場は、ダム真下の他に、左岸のダムサイトにも用意されている。
傾斜の強いアーチ面。
各扶壁上の丸い出っ張りはサイフォン式洪水吐によるもの。
アーチ上部の天端から湖水が越流する前に、サイフォンを通って自動的に放流するカラクリとなっている。
その非常に凝った洪水吐は、天端の保護が目的だが、灌漑用水として、より適温の水を放流するといった狙いもあったのではないだろうか?。
左岸の一番手前の洪水吐のみ手動のゲートとなっている。
石の宮殿を思わせる美しい姿。
日本にアーチ式ダムが登場する遥か前に築かれた石積み多連アーチは、空中都市マチュピチュや、ナスカの地上絵に通じるミステリアスなロマンに溢れている。
豊稔池堰堤。
★★★★★
2010.10.26 追記
豊稔池堰堤の石積は、貯水池側は石材だが、下流面側はコンクリート製のブロックなのだそうです。
現地では気が付きませんでした。 -
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Comment
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2010/04/22 6:07 PM posted by: 夜雀豊稔池拝見。
やっぱり素敵だ。
佐野藤次郎先生の最高傑作だもの。
マルティプルアーチはバットレスダムでよいですよ。
海外ではバットレスに分類されております。
「水圧などの荷重をスラブまたは連続アーチにより支持し、さらにこの力をバットレスによって基礎地盤に伝達させるコンクリート造りのダム」と定義されておりますので。
豊稔池の石碑は本当にこのダムにかけた地元の方の心が伝わってくる感動的な石碑ですよね。
また行きたいな〜。
今まで4回行ってるけど。
夜雀 拝 -
2010/04/23 5:31 PM posted by: あつだむ宣言!こんにちわ。
豊稔池は、ちょっと特別な存在ですよね。
外観も、構造も、他に無い名堤です。
それこそ竣工当時は、今現在感じるインパクトとは比べものにならない凄い建造物だったんでしょう。
建設に携わった住民の方も鼻高々です。
4回も行っておられますか。
僕は次は水がたっぷりとある時期に行きたいです。 -
2012/03/05 1:28 PM posted by: ていていこんにちわ。
2月の終わりに四国のダムを巡ってきました。満濃池、豊稔池、早明浦、穴内川と、あつだむさんお勧めのダム…本当に素晴らしかったです。
満濃池の水面の美しさの中に歴史の深みを感じ、豊稔池の石積みも一つ一つに貴重な歴史の重みを感じ、四国の素晴らしいダムを見れありがたい気持ちになりました。
また早明浦の登場の仕方…!!ニクい登場ですね。
四国を見守る温かくも頼もしい姿に主人と共に敬意を払いながら、ミーハーな私は四国初のダムカードゲット!!有名人にサインをもらったみたいな気持でした。
穴内川は一言でかっこいい!ダムですね。終始ドキドキでした。ああ・・・いいダム巡りでした。あつだむさん、ダムのセレクトを有難うございました(^_^)/ -
2012/03/06 12:44 PM posted by: あつだむ宣言!こんにちわ。
四国のダム、堪能できたでしょうか?
早明浦の見え方。そうですよね、あの橋、本当にナイスな橋です。
あの距離感で真正面からどかーんって観れるのはなかなかありませんよ。
ご主人もじわじわとダムの魅力が解ってきたのではないでしょうか?
来年の今頃、
「ワタシとダムとどっちが大切なのっ!!」
って事にならない様、ご主人を巻き込むのはほどほどに・・・(笑)
四国はまだまだ素敵なダムがいっぱいありますよ。少し遠いですが機会があれば巡ってみてください。 -
2019/02/15 8:28 AM posted by: あつだむ宣言!そういう事は三十年前に言って欲しかったぞ!
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